以下、論文紹介と解説です。
Seo SR, et al. Disrupted Skin Barrier is Associated with Burning Sensation after Topical Tacrolimus Application in Atopic Dermatitis. Acta dermato-venereologica 2017; 97(8): 957-8.
16歳以上の中等症〜重症のAD患者60人に対し顔にタクロリムス外用薬を2週間塗布し、刺激感の発生頻度をTEWLや皮膚の水分量と関連するかを検討した。
背景
■ アトピー性皮膚炎(Atopic dermatitis ; AD)は、皮膚水分量の減少および経表皮水分蒸散量(transepidermal water loss ;TEWL)の増加によって示されるように、皮膚バリア機能障害と強く関連している。
■ ステロイド外用薬の長期使用は、皮膚の萎縮や紅斑のリバウンドといった、有害な皮膚への影響を起こすリスクがある。
■ カルシニューリン阻害剤外用薬であるタクロリムスやピメクロリムスは、中ランクのステロイド外用薬に匹敵するくらい有効であることが判明している。
■ しかし、タクロリムス外用薬の主な副作用は局所的な副作用であり、時に治療中止につながるような灼熱感がある。
■ タクロリムス外用後の灼熱感のメカニズムは、皮膚バリア機能の障害と関連すると考えられるが、TEWLとタクロリムス外用後の灼熱感との関連性を評価する研究はない。
■ 本研究では、タクロリムス外用薬に伴う灼熱感とADにおける皮膚バリア機能との相関を評価した。
材料および方法
■ この前向き研究は、2011年4月から2015年4月まで実施され、1975年のヘルシンキ宣言の倫理指針に従い城南市CHA大学のBundang CHA メディカルセンターの施設審査委員会で承認された。
■ すべての患者に対し、書面によるインフォームドコンセントを実施した。
■ 同じ皮膚科医によって確認された、Hanifin&Rajkaの診断基準を満たす中等症〜重症のADのある16歳以上の患者が研究に登録された。
■ すべての患者は、タクロリムス軟膏を初めて使用し、顔面に病変があった。
■ 試験参加時に以下の条件のいずれかを満たしていた場合、患者は試験から除外された:
■ 外用されるべき部位におけるAD以外の他の皮膚科学的病変; マクロライドまたは他の軟膏に対する既知の過敏症、腫瘍、HIVを含む腫瘍、全身性疾患の病歴、不安定もしくはコントロール不良な慢性疾患; 妊娠中もしくは授乳中の女性。
■ 治験前のAD治療には、全身性ステロイド薬・他の免疫抑制薬に関しては4週間、ステロイド外用薬・抗生物質外用薬・その他の免疫調節剤外用薬は1週間から4週間のウォッシュアウト期間を設けた。
■ AD患者の皮膚バリア機能を評価するために、AD患者の頬部に対してVapometer(R)(Delfin Technologies Ltd, Kuopio, Finland) を用いてTEWLを測定した。
■ 皮膚水分量は、TEWLの場合と同じ部位においてCorneometer(R)(Courage&Khazaka electronic GmbH、Köln、Germany)を用いて評価した。
■ 各測定器で3回反復して測定し、平均値を計算した。
■ タクロリムス0.1%軟膏(Protopic; Astellas Pharma Korea Inc.、Seoul、Korea)を、薄く顔面アトピー性病変に1日2回塗布した。
■ 最初の受診から2週間後に、灼熱感の発症が質問された。
■ 本研究における「灼熱感」の定義は、使用部位の疼痛、刺すような痛み、うずきなどの事象を含むほてりまたは熱感だった。
■ 灼熱感の有無による2群の患者を比較するために、student-t検定が使用された。
■ タクロリムス軟膏塗布後の灼熱感の有無にかかわらず、TEWLと皮膚水分量の平均および標準偏差(SD)を計測し比較した。
■ SPSS (version 24.0, SPSS Inc. Chicago, IL, USA)を使用してデータを分析し、0.05未満のp値を有意と見なした。
結果
■ 計60人(年齢の範囲16〜62歳、平均年齢29.1歳)が試験を完了した。
■ その中で、30人(50%)が灼熱感を経験した。
■ TEWL値は、灼熱感のある患者の方が、そうでない患者よりも統計的に有意に高かった (113.7 ± 78.4 g/m2h vs. 27.5 ± 23.2 g/m2h, p < 0.001)。
■ 皮膚水分量は、灼熱感のある患者とない患者の間で統計的に有意な差を示さなかった(51.8 ± 18.6 g/m2h vs. 53.6 ± 15.6 g/m2h, p = 0.673)。
■ 灼熱感のあった患者のうち、11人がタクロリムスに関連した掻痒があり、4人が灼熱感のない掻痒を呈した。
■ 灼熱感のある30人のうち、13人(21.7%)がタクロリムス外用薬の使用を中止し、17人は中止することなく徐々にタクロリムス外用薬に対して寛容になった。
■ 軟膏を中止した患者と中止しなかった患者のTEWLには統計的に有意な差はなかった(122.8 ± 78.5 g/m2h and 106.7 ± 80 g/m2h, p = 0.586).。
■ 耐え難い灼熱感がある場合は、市販の保湿剤とタクロリムス外用薬を1:1の割合で混合して塗布することを患者に勧めた。
■ 中止された患者の大部分(13人中12人の患者)は、保湿剤と混合するとタクロリムス外用薬を許容した。
ディスカッション
■ この研究において、TEWLは、タクロリムス外用薬を使用した後の灼熱感のない患者よりも、灼熱感のある患者において統計的に有意に高かった。
■ TEWLの上昇は、タクロリムス外用薬塗布後に灼熱感を予測することができる。
■ タクロリムス外用薬の主な利点は、プロアクティブ治療療の提供である。
■ 最近、Chittockらはタクロリムス外用薬のプロアクティブな使用は、ADにおける無症状のバリア破壊の修復を促進することを示した。
■ タクロリムス外用薬は皮膚の萎縮を引き起こさず、顔や首などの皮膚がより弱い部位に安全に使用できる。
■ タクロリムス外用薬の長期安全性は確認されている。
■ タクロリムス外用薬の副作用は、灼熱感やそう痒など一過性の適用部位反応である。
■ これらの副作用は、AD患者の1.6〜5.3%で治療の中止につながる。
■ 本研究では、21.7%の患者が灼熱感のためにタクロリムス軟膏の使用を中止した。
■ 他の臨床試験では、16〜59%が灼熱感を経験し、9〜46%の患者がそう痒を報告した。
■ タクロリムス外用薬を塗布した後の灼熱感は、治療の最初の数日間、約15〜20分間続く。
■ 一般に、灼熱感、そう痒、紅斑は、タクロリムス外用薬を開始してから1週間以内には改善し、小児よりも成人の方がよく発症する。
■ これらの合併症は疾患重症度に関連している。
■ そのような事象は、ADの病変が皮膚バリアや皮膚水分量の改善と共に改善するにつれて急速に低下する。
■ タクロリムス外用薬後の灼熱感の機序は完全には理解されていない。
■ タクロリムスはげっ歯類において神経後根を活性化し,マウスの皮膚において神経ペプチド放出と肥満細胞脱顆粒を誘導することが知られている。
■ 皮膚神経活性化の鍵となる分子は、非選択的陽イオンチャンネル、transient receptor potential vanilloid 1 (TRPV1)である。
■ タクロリムスの使用は感覚ニューロンを刺激し、TRPV1チャンネルのリン酸化を増加させ、サブスタンスPとカルシトニン遺伝子関連ペプチドを含む炎症性神経ペプチドの放出をもたらす。
■ 結果として、これは神経終末周辺の局所的な皮膚神経原性炎症、一時的な灼熱感や疼痛を促進する可能性がある。
■ 皮膚のバリアが破壊されると、より多くのタクロリムス分子が吸収され、AD病変の灼熱感や掻痒などの副作用が生じる。
■ ステロイドを含まない市販の保湿剤は、皮膚のバリア破壊に起因するTEWLを抑制する可能性がある。
■ 対照をおいた臨床試験では、保湿剤がADの症状、特にそう痒・紅斑・亀裂・苔癬化を改善することが示されている。
■ 今回の研究では、中止した患者のほとんどは、保湿剤と混合したタクロリムス外用治療を寛容した。
■ 以前、Al‐Khenaizanはタクロリムス外用薬の前の冷却が灼熱感を低下させることを示唆した。
■ この方法も灼熱感を軽減するには良い方法であるが、チューブを長時間冷却すると薬剤が濃縮して押し出しにくくなることがある。
結論
■ 結論として、TEWLの増加はタクロリムス外用薬に関連した灼熱感の予測因子となり得る。
■ 灼熱感の予防には、保湿剤の使用やタクロリムス外用薬をゆっくり増やすことが推奨される。
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TEWLでタクロリムス外用薬の刺激感が予測でき、保湿剤との混合で軽減できる可能性がある。
■ TEWLは、普段の診療に使用できるわけではありませんが、「皮膚のバリア機能が低い」ことが「刺激感」の原因になることがわかります。
■ これは、「500ダルトンルール」からも予想できる結果と言えます。
■ 以前、プロトピック外用薬の冷却のご紹介をしましたが、それと同様に「保湿剤との混合で刺激感が軽減できる」という方法は臨床的に使いやすい方法かもしれませんね。
■ ただし、ここまで刺激感が低減されるとなると、「効果」はどうなのだろうかと少し心配になります。
今日のまとめ!
✅ TEWLでタクロリムス(プロトピック)外用薬の刺激感が予測でき、保湿剤との混合でその刺激を緩和できるかもしれない。