以下、論文紹介と解説です。
Kabashima K, . Trial of Nemolizumab and Topical Agents for Atopic Dermatitis with Pruritus. N Engl J Med 2020; 383:141-50.
アトピー性皮膚炎と中等度から重度のかゆみがある143人(試験開始時のかゆみの中央値が100段階で75)に対し、ネモリズマブもしくはプラセボを16週間投与し、有効性と安全性を評価した。
背景
■ ネモリズマブは、アトピー性皮膚炎のそう痒や炎症に関与するインターロイキン-31受容体Aに対するヒト化モノクローナル抗体である。
■ フェーズ2試験では、ネモリズマブはアトピー性皮膚炎の重症度を軽減した。
方法
■ アトピー性皮膚炎と中等度から重度のそう痒があり、外用薬の効果が不十分な日本人患者を対象に、16週目まで4週間ごとにネモリズマブ(60mg)皮下注またはプラセボを16週間投与するという外用薬を併用した上でのフェーズ3のランダム化(2:1)二重盲検試験で実施した。
■ プライマリエンドポイントは、試験開始から16週目までのそう痒のvisual-analogue scale(VAS)スコア(範囲0~100、スコアが高いほどそう痒が強いことを示す)の平均変化率だった。
■ セカンダリエンドポイントは、4週目までのそう痒に対するVASスコアの時間的変化、Eczema Area and Severity Index(EASI)スコアの変化(範囲0~72、スコアが高いほど重症度が高い)、Dermatology Life Quality Index(DLQI)のスコアが4以下(範囲0~30、日常生活への影響が大きいほどスコアが高い)、Insomnia Severity Index(ISI)のスコアが7以下(範囲0~28、重症度が高いほどスコアが高い)、安全性だった。
結果
■ 計143人が、ネモリズマブ投与群とプラセボ投与群にランダム化された。
■ 試験開始時におけるそう痒VASスコアの中央値は75だった。
■ 16週目のVASスコアの平均変化率は、ネモリズマブ群で-42.8%、プラセボ群で-21.4%だった(差-21.5%ポイント; 95%信頼区間 -30.2~-12.7; P<0.001)。
■ EASIスコアの平均変化率は、ネモリズマブ群で-45.9%、プラセボ群で-33.2%だった。
■ DLQIスコアが4以下の患者の率は、ネモリズマブ群で40%、プラセボ群で22%であり、ISIスコアが7以下の患者の率は、それぞれ55%、21%だった。
■ 注射に関連した反応の発生率はネモリズマブ群で8%、プラセボ群で3%だった。
結論
■ この 16 週間の試験によると、アトピー性皮膚炎に対し、外用剤に加えてネモリズマブ皮下注射を使用すると、プラセボ+外用剤に比べてそう痒が大きく改善した。
■ 注射部位の反応の発生率はプラセボよりもネモリズマブの方が高かった。
■ ネモリズマブの持続的効果やアトピー性皮膚炎に対する安全性を判断するためには、より長期かつ大規模な試験が必要である。
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ネモリズマブは、特に『アトピー性皮膚炎の痒み』にフォーカスした生物学的製剤で、実用化が期待されている。
■ 先行したデュピルマブは、皮膚バリアや炎症を抑える生物学的製剤として有効です。
■ ただ、全例に有効なわけではありませんし、重篤な結膜炎により中断せざるを得ない場合もあります。
■ そして、ネモリズマブは特に、『かゆみに』効果がでやすい生物学的製剤であることにアドバンテージが有るといえるでしょう。
■ だからこそ、プライマリエンドポイント(第一に見ておこうとする指標)に『かゆみ』が入っているということになります。
■ ただし、先行したデュピルマブと同様、生物学的製剤はきわめて高価な薬剤になるでしょう。
■ あくまでも『重症の方が改善して軽症に持ち込むための薬』です。
■ スキンケア自体が要らなくなるわけではないことはまた、重要な点であろうと思われます。
■ なお、まだまだ小児使うことが難しいことが問題です。先行しているデュピルマブも、気管支喘息において12歳以上につかえるのみで、アトピー性皮膚炎に関しては15歳以上にしか使えません。
■ こういった『差別』は、小児科が不採算分野であるからだと思われますが、新規薬剤を小児科に使えるようになるなにかの国際的な規制みたいなものが必要なのだろうと思います。
■ もちろん、今回の研究結果は、とても喜ばしい福音です。(多くの方は皮膚ケアで改善していくことを望みつつ)、必要な方に届くようになっていくことを願っています。
今日のまとめ!
✅ ネモリズマブは、特に『アトピー性皮膚炎の痒み』を改善する。