以下、論文紹介と解説です。

Sakihara T, et al. Randomized trial of early infant formula introduction to prevent cow's milk allergy. J Allergy Clin Immunol 2020.[Online ahead of print]

一般新生児504人を生後1ヶ月から生後3ヶ月まで普通粉ミルク摂取群と回避群にランダム化し、生後6ヶ月の乳アレルギーの発症率を比較した。

背景

■ 先行研究では、牛乳タンパク質の早期導入による牛乳アレルギー(cow’s milk protein on cow’s milk allergy ; CMA)の予防効果について、相反するエビデンスが得られている。

 

目的

■ ランダム化比較試験により、一般集団における CMA の一次予防に普通粉ミルク(cow’s milk formula; CMF)を早期に導入することが有効な戦略となり得るかどうかを検討した。

 

方法

■ 沖縄の4病院から新生児をリクルートした。

管理人注
生後1ヵ月前に母乳育児不足を補うために必要な普通粉ミルクは、両群とも摂取可能としています。

生後1~2ヶ月にCMFを1日10mL以上摂取する群(摂取群)とCMFを避ける群(回避群)にランダム化した。

管理人注
介入方法は以下のとおりです。
摂取群
1)生後1~2カ月に粉ミルクを1日10mL(乳蛋白150mg相当)以上摂取
2)生後3ヶ月に達するまでは、粉ミルクの中断は1週間までとし、月に少なくとも20日間は粉ミルクを摂取する
3)摂取量の上限は規定せず、加水分解物やアミノ酸乳(すなわち低アレルゲンミルク)は使用しない
回避群
4)生後1~2ヶ月に粉ミルクを避け(月10日未満)、必要な場合には大豆製の粉ミルクで母乳を補うように指示

論文から引用。研究フローチャート。生後1ヶ月に504人がランダム化された。

■ 回避群では、必要に応じて大豆ミルクで母乳を補った。

■ CMAの発症を評価するために、生後6ヶ月の時点で経口食物負荷試験を実施した。

管理人注
生後3ヶ月・6ヶ月で乳の経口負荷試験を実施されています。
生後3ヶ月の負荷試験が陽性だった乳児を除き、生後3ヶ月以降は母乳育児のために必要な粉ミルクを摂取するように指示されました。

■ 両群とも生後6ヶ月までは継続的な母乳育児が推奨された。

 

結果

■ 乳児504人を2群にランダム化した。

論文から引用。試験開始時の摂取群・回避群の特徴に差はない。

■ 全参加者のうち12人の保護者が介入を辞退したため、intention-to-treat(ITT)解析のために491人(摂取群242人、回避群249人)の参加者を調査対象とした。

CMAを発症したのは、摂取群242人のうち2人(0.8%)、回避群249人のうち17人(6.8%)だった(リスク比 0.12; 95%CI 0.01~0.50; P<0.001)

論文から引用。ITT解析で摂取群のうち0.8%、回避群では6.8%が乳アレルギーを発症。
さらに、Per-protocol解析(プロトコールが守られなかった例、すなわち摂取群の23人[10.1%]と回避群の40人[17.0%]を除外)では、摂取群204人中発症者はゼロ、回避群195人中17人(8.7%)だった(P < 0.001)。

■ リスク差は6.0%(95%CI 2.7~9.3)だった。

■ 両群の約70%は、生後6ヵ月の時点でも母乳育児を継続していた。

 

結論

■ 生後1~2ヶ月にCMFを毎日摂取することで、CMAの発症を防ぐことができる。

■ この戦略は母乳育児とは競合しない。

 

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このSPADE試験は、乳アレルギー発症予防介入研究として金字塔になるでしょう。

■ このSPADE試験は、乳アレルギーの発症予防研究として金字塔になる研究と思われます(もちろん、完全母乳だと乳アレルギーを発症するという意味ではなく、それでも9割以上は乳アレルギーを発症はしないともいえます)。

 

■ 最近、生後3日以内に乳を開始するとかえって乳アレルギーを発症しやすくなるかもしれないという報告があり、議論が起こっていました。

■ 今回のSPADE試験では、生後3日以内に粉ミルクを飲んでいても、その後生後1ヶ月以降に1日10mL以上の粉ミルクを飲んでいれば、影響しないことが示されています。

 

■ ここまででわかることは、早期摂取開始による食物アレルギーの発症予防は、それぞれの対象となる食物により戦略がかわることが予想されるということです。

■ 単に『早期開始』という1フレーズにまとめられるものではなく、食物に酔って開始時期・料理形態や量、期間、皮膚状態、感作の程度なども考慮しなければならないという、非常に複雑なものなのです。

 

■ ピーナッツは比較的シンプルに、生後5~10ヶ月に開始をするという戦略でうまくいきました(その後の研究で、開始時の感作の状況や、皮膚の状態、開始時期などに影響はされることは判明している)。

■ 一方で、卵アレルギーの発症予防に関してはさまざまな条件があることがわかっています。

■ 生後6ヶ月までにスキンケアなどで皮膚の安定化+加熱卵微量で開始することが必要であるということです。

 

■ そして、乳に関しては、生後1ヶ月には粉ミルクを追加するという戦略が考えられるということです。

■ 今回のSPADEでは、『全員にスキンケア指導』が行われており、湿疹の発症は非常に少なかったようですので、皮膚状態の影響は検討できていませんが、摂取量は10mLという少ない量で有効であり、母乳栄養の継続には問題はないことになります。

 

生後1ヶ月での乳の負荷試験時(粉ミルク20mL)に、1人は皮膚症状(紅斑)、そして1人はFPIES(新生児乳児消化管アレルギー)を発症して除外されていますので、完全に安全とはいえませんが、内容的には慎重に開始すれば多くは安全といえるでしょう。

■ なお、SPADE試験には公費が使われておらず途中で研究費の問題で研究継続が断念されましたが、その有意差が示されました。

■ 乳回避群に発症した乳アレルギーの発症率が、予想(5%未満)より高かった(6.8%)からと考えられますが、これらに関しては、さらに研究が必要とされています。

■ ここまで続けられた研究者の方々、そして参加者の方々に感謝いたします。

 

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今日のまとめ!

 ✅ 生後1ヶ月から3ヶ月まで、普通粉ミルクを10mL以上を継続して飲んでいると、乳アレルギーを予防できるかもしれない。

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