「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」に関して考えたこと。

鶏卵アレルギー発症予防に関する提言

卵アレルギー発症予防に対する提言。

■ 2017年6月16日に、「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」が日本小児アレルギー学会から提唱されました。

この提言が上手に運用されることで、卵アレルギーのお子さんと重篤なアトピー性皮膚炎のお子さんも減ることが十分に考えられますしかし、誤った運用では、むしろリスクを負うお子さんが出るかもしれません

■ そこで、この提言に関し、私の思うところを記載してみたいと思います。自分自身もこの提言を十分に咀嚼し正しい運用をできるように努めたいですし、この記事が皆様の参考になることを願っています。

* 2017/6/27 記載を加筆・少し修正しました。

 

重要なポイント
1) この提言は、「予防」に対してであって「治療」ではない
2) 予防対象はアトピー性皮膚炎の診断もしくは既往のある、生後6か月未満の子ども。
3) スキンケア指導は必須
重症度に応じステロイド外用薬も使用しプロアクティブ治療も行うが、ステロイドを使用することを目的としているわけではなく、スキンケア指導も十分行い、「皮膚を安定化させる」が目的。
4) 卵は「十分加熱」したものを「微量」摂取する。
目安は「20分ゆで卵黄1/3個」もしくは「20分ゆで卵白0.2g」を基本的には毎日摂取。

 

 

この提言は、「予防」に対してであって「治療」ではない。

まず、PETIT研究の理解が必要です。

■ この提言は、主にPETITスタディという卵アレルギー予防研究から組み立てられています。PETITスタディは、以前このブログでもご紹介いたしました。

■ PETITスタディを簡単にまとめると、このようになります。

■ さらに、ここ数年で、エビデンスレベルの高い予防研究結果が複数報告され、卵アレルギーの予防に関する条件が見えてきました。そのような結果をまとめて、この提言が生まれたといえるでしょう(他の研究は下にリンクを作りましたのでご参考になれば。)。

 

「治療」ではなく「予防」。

■ 以下のように提言には明記されています。つまり、この提言は予防に対してであって治療に対するものではありません

本提言は発症予防のためであり,すでに鶏卵アレルギー(即時型,食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎)の発症が疑われる乳児に安易に鶏卵摂取を促すことはきわめて危険であるため,「食物アレルギー診療ガイドライン2016」に準拠した対応をする.

■ また、今まで、湿疹の既往がないお子さんは、この提言には当てはまらず、「授乳・離乳の支援ガイド」に基づいて、卵摂取を開始していただいてよいとしています。ただし、現在のガイドは2017年以内に改定予定で、卵の開始時期も早くなる可能性があります。

■ 蛇足ですが、海外ではもっと離乳食開始は遅いとか、WHOでは6か月以降にしなさいと言っているといったブログ記事をみかけます。しかし、海外でも離乳開始時期が早くなってきているという報告もありますし、WHOが離乳食開始時期を6か月以降にしたのはアレルギー予防の観点からではありません。その点に関してもブログでご紹介いたしましたのでご参考まで。

 

予防ではなく、治療として対応が必要な児とは?

■ 卵アレルギーの診断は本来は負荷試験を要しますが、この年齢での負荷試験は簡単ではありません。提言には明言されていませんが、下記のような児が暫定的に卵アレルギーと言えるでしょう。

すでに卵アレルギーを発症していると考えられ、専門医による慎重な対応が必要な児

1) 卵を摂取して症状が出現したことがある。

2) 医師に卵アレルギーであると診断された。(血液検査データのみで除去を指導された、はこれには当たりません。その場合は再度医師に確認とその判断が必要と考えられます)。

 

■ PETITスタディは研究ですので、開始時期の血液検査が実施されています。しかし、”検査結果が判明する前に”卵の負荷を開始しています。そして、プラセボ(かぼちゃ粉末)と比較しても症状の陽性率に差がありませんでした。

■ また、生卵で負荷を開始したSTEPスタディは、皮膚プリックテスト陰性の児が研究対象であり、初回負荷時に症状はでていません。

■ 私ならば、過去に中等症以上のアトピー性皮膚炎児の場合は、血液検査を行うでしょう。しかし、皮膚が寛解し次第、例えば「固ゆで卵黄少量」ならば、血液検査の結果が判明していなくても開始するでしょう。

■ なお、「きょうだいが卵アレルギーだから」は、血液検査をする理由にはなりません。ただし、「湿疹の既往」は検査して良いかもしれません。

 

 

予防対象はアトピー性皮膚炎の診断もしくは既往のある、生後6か月未満の子ども。

■ PETITスタディが6か月からの加熱少量卵開始で卵アレルギーの予防ができたことから、6か月未満からが勝負の開始といえましょう。

 

提言から抜粋。

※1. すでに鶏卵感作が確認されている場合は「食物アレルギー診療ガイドライン2016」9)に従う
※2. アトピー性皮膚炎の診断として,The U.K. Working Party’s diagnostic criteria for atopic dermatitisなどを参考とする(本文中「2. 食物アレルギーの発症リスクとしてのアトピー性皮膚炎」を参照)
※3. スキンケア指導・薬物療法:スキンケアは皮膚の清潔と保湿を基本とし,薬物療法はステロイド外用薬を中心とする
その詳細と使用方法は「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016」28)などを参照する
※4. 2017年度内に改訂予定
※5. 寛解とは外用剤塗布の有無を問わず皮疹が消失した状態を意味する
※6. 開始時・増量時は原則として医師の観察のもと摂取すること

 

スキンケア指導は必須。

■ PETITスタディの参加者は明らかなアトピー性皮膚炎であり、多くはプロアクティブ治療を要しました。プロアクティブ治療は、炎症のある初期に十分な抗炎症薬(ステロイド外用薬)を使用し、その後外用薬の使用頻度をゆっくり延長し、保湿薬によるスキンケア中心の治療のしていく手法です。

■ したがって、提言にある通り、「通常のスキンケアとステロイド外用療法によっても湿疹が改善しない/繰り返す場合」とは、プロアクティブ治療を考慮する必要性があるお子さんということになります。

■ 皮膚を安定化させなければならない理由は、やはりPETITスタディにあります。以下の図のように、「卵を摂取していても予防できなかった群」は、皮膚が悪化していた子どもたちでした。すなわち、皮膚が不安定で摂取を続けても予防効果が上がらない可能性が高いと思われます。

■ そこで、スキンケア指導やステロイド外用薬の使用に関し、丁寧な指導が必須となります。

■ その指導は、「洗浄方法」「保湿薬も含めた外用薬の1回の使用量」「ステロイド外用の使用期間」が中心となります。 そのため、それらのスキンケアに対する具体的な指導が医師に求められます

■ ここで勘違いされやすいのは、プロアクティブ治療を、「ステロイド外用薬を沢山使う治療だ」と誤解を受けることでしょう。

■ しかし、小児においてのプロアクティブ治療とリアクティブ治療(症状が出たときのみステロイド外用を使う)を比較した報告はすでにあり、プロアクティブ治療のほうが皮膚状態は安定し、ダニ感作の増悪を抑制し、ステロイド外用薬の使用量も変わらないという結果となっています。

■ さらに、アトピー性皮膚炎の重症度が高ければ高いほど、期間が長くなればなるほど、その後の食物アレルギーの発症リスクは高いことが、すでに複数の報告で示唆されています。

■ 繰り返しますが、プロアクティブ治療は、ステロイド外用薬を沢山使うことを目的にした治療法ではなく、「炎症を早く収めて罹病期間を短縮し、保湿薬中心の治療にランディングする」ための治療です。

■ そのためには、やはり繰り返ししなりますが適切なスキンケア指導は必須で、そのうえでステロイド外用薬の使用期間や使用間隔、使用量も具体的に指示すること、そして皮膚状態が改善してステロイド外用薬を減量できるまで慎重に治療を続ける必要があります。

■ ステロイド外用薬を処方のみして、「良くなったら中止して」というような指導ではこの予防法は成功しない可能性が高くなるでしょう。

 

卵は「十分加熱」したものを「微量」摂取する。

生卵や加熱が少ない卵だと何が問題か?

■ 卵早期開始による卵アレルギー予防研究は、研究名として主なものとして、STARスタディ、HEAPスタディ、BEATスタディ、STEPスタディ、そしてPETITスタディがあります。EATスタディは開始時期がややずれることと、卵のみの予防研究ではないので、おおむね下のような結果とまとめられましょう。

 

 

■ すなわち、卵アレルギーの予防という観点からは、「生卵」で予防を試みた研究結果はすべて失敗し、「加熱卵」で予防を試みたPETITスタディとEATスタディのみ良い結果を導いたといえます(EATスタディは、”摂取を続けることが出来た群のみ”での検討では予防できていますが、摂取できた群が少なかったという欠点があります)。

■ 提言では、具体的な量に関し、

生後6 か月より50 mg の加熱全卵粉末(加熱全卵0.2 g 相当)を3 か月間継続し,生後9 か月より250 mg の加熱全卵粉末(加熱全卵1.1 g 相当)を3 か月間摂取した.

としながらも、

あくまで臨床試験として用いられた1 つの手法であり,すべての乳児に画一的に当てはめることを本提言は推奨していない

としています。

■ とはいえ、摂取開始時の量の目安は必要でしょう。そのため、提言には以下のように、卵の抗原量・アレルゲン性に関する言及があります。おおむね「20分茹で卵白0.2g」か、「固ゆで卵白1/3個程度(茹で終わった後1時間以内)」が目安になるのではないでしょうか。

ELISA 法による抗原量測定の報告によれば,20 分の固ゆでをした場合,その卵白1g 中にはオボムコイド(ovomucoid:OM)が10.5 mg 検出される.卵黄に関しては,ゆでてから1 時間放置したのちに卵白から外した卵黄1/3 個以下であればOM の含有量は卵白0.2 g 相当以内となるため,PETIT スタディ(15 分加熱全卵を使用)の結果を踏まえれば,固ゆで卵黄摂取による誘発症状のリスクは低い.

■ ここで注意して置きたいのは、固茹で卵を作成したあと、しばらく放置しておくと、卵黄にオボムコイドが吸収されていくことです。提言に「ゆでてから1時間放置したのち・・」と記載があるのは、茹でた後すぐに卵白と卵黄を取り分けた場合と、しばらく放置した卵黄は、抗原性が異なるからです

■ ここで参考にされた伊藤節子先生の研究の詳細は、下記の書籍に詳しいです。アレルギー専門医であれば必携でしょう。

 

卵黄つなぎはいつから使えるか?

■ また、提言には1g程度まで増量ができれば「卵黄つなぎ」が使えるようになり、食生活や離乳食の導入も容易になるでしょうと記載されています。なお、この研究結果に関してはこのブログでも取り上げさせていただきました。

生の状態で取り分けられた卵黄には最大で1 〜2 g 程度の卵白が混入しており,固ゆで卵白1 g の摂取が可能であれば比較的安全に卵黄をつなぎ等の調理に使用できることが報告されている.

■ 卵黄つなぎ(生卵の段階で白身と黄身を分けて、そのうち黄身を使う、という方法)は、29分の1個程度の卵白が混入するそうです。Mサイズの卵の卵白が35g程度ですので、たしかに重量は1-2g程度、といえそうです。

■ ただ、あくまで私見ですが、固茹で卵白と卵黄つなぎだと加熱の条件がかなり異なるので、切り替え時は慎重にしてよいと思います。実臨床では、10gの固茹で卵白が摂取できても1-3g程度の十分加熱したそぼろ(例えば3分加熱の全卵そぼろ)でも症状がでるお子さんも良く見受けられます。もちろん、これは治療での話ですので、予防に適応はできないかもしれませんけれども、、。

加熱加工した卵(ビスケットなど)でしてはいけないか?

■ これは提言は触れていませんし、十分なデータが不足しています。

■ 個人的には、やはり固茹で卵白微量や固茹で卵黄から始めた方が良いと思っています。

■ あくまで「治療」での話ですが、ビスケットなどを半年間摂取継続していても、半個の生卵は食べられず、検査データもプラセボと差がないという研究結果もあります。なお、今週末に、加熱加工した卵・乳が治療的に効果があるかどうかのシステマティックレビューをご紹介する予定です。

■ この理由のひとつとして、マトリックス効果という現象が報告されています。卵と小麦と混合して加熱するとジスルフィド結合という蛋白の結合を切りやすくなり、抗原性が低下するようです。過去の報告では思ったほど差はなかったようですが、注意する点かと思います。

 

少量加熱卵白でも症状が誘発される可能性はあるか?

■ この点に関しては残念ながら提言には十分な記載はされていません。

すでに鶏卵アレルギーを発症している乳児に安易に鶏卵摂取を促すことはきわめて危険な行為である.

という記載はあるものの、厳密に発症しているかどうかを見極めることは中々難しい面があります。

■ また、この研究において卵摂取をした児は60名にすぎませんので、600名では?6000名では?60000名では?と増えてくれば症状を誘発した児は出てくる可能性が十分あります。

■ あくまで個人的な見解ですが、「総IgE値が低く」「オボムコイド特異的IgE抗体価も高い」児は、慎重に考えたほうがいいと思います。

■ 実際、臨床の経験上もそうですし、すでに3.5g(=1/10個)の20分茹で固ゆで卵白でデータがでているからです(自分の論文で恐縮ですが、食物アレルギー診療ガイドライン2016に収載されている論文でもありますのでご了承下さい)。

論文から抜粋。20分ゆで卵白3.5g(=1/10個)の負荷試験の結果。横軸がオボムコイド特異的IgE抗体価で縦軸が症状誘発率。ただし、1歳から9歳未満のデータ。

■ 生後6か月での検査では、一般に卵白特異的抗体価が高値でもオボムコイド特異的IgE抗体価は低いことが多く、確かに、このデータで示す3.5gよりはるかに少ない0.2gではほとんど症状が出現しないと思われます。ただし、例えば総IgE値が50だけどオボムコイド特異的IgE抗体価が25ありますといった特殊な状況では十分注意が必要と思います。

■ また、提言のフローチャートにもあるように、負荷中の「食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎」の鑑別を要します。実臨床でも、卵の除去(母および/または患児)をすることで湿疹が改善する場合はあります。

■ ただし、実際に除去を要することは一般的に思われているよりは少なく、エビデンスは限られたものしかありません。最近のコクランレビューでも、明らかなエビデンスはないとされています。

■ 湿疹がないうちであれば、母の卵摂取は、むしろお子さんの卵アレルギーの防御に働くのではないかという報告もあります。

他に気をつける症状はあるか?

■ また、提言には記載がないものの、好酸球性食道炎にも注意を要するでしょう。

■ 湿疹としてでなくとも、嘔吐が前面に症状としてある場合は、無理せず、少し待機してから再度負荷、もしくは卵白を負荷している場合は卵黄にもどしても良いと思います。

■ 提言に記載のない、これらの点はあくまで私の考えですので、個々の患者さんに対しては良く判断していただければと思います。

 

最後に

■ この提言の最初に名前を記されている福家辰樹先生、さらにこの提言のもととなったPETIT研究のファーストオーサーである夏目統先生、樺島重憲先生、さらに大矢幸弘先生、海老澤元宏先生をはじめ関係の先生方は本当に大変だったと思います。

■ 私は、夏目先生とアレルギー学会の最終日に同じシンポジウムでシンポジストをしていましたが、質問は夏目先生のみに集中していました。日本アレルギー学会の最中にこの提言が発表されたこともあり、苦労が偲ばれます。

■ 今回の内容は、提言にかかれていないような私見も含まれます。実際に実施される場合には十分に専門医・かかりつけ医の先生に相談されることをお願い致します。特に、患者さんご自身の判断で実施されることは避けていただくよう重ねてお願い致します

 

今日のまとめ!

 ✅「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」が日本小児アレルギー学会から提唱された。世界に先駆けて卵アレルギー予防に踏み込んだ提言ではあるが、運用には細心の注意を払うべきである。