TEWL(経皮水分蒸散量)を小児アレルギー専門医が解説してみた。

 TEWL(経皮水分蒸散量)とアレルギー疾患。

■ 先日、TEWL(transepidermal water loss=経皮水分蒸散量)に関するレビューを書きました。

■ ネット上のTEWLに関しての情報は、簡単すぎたり、一方で研究目的のとっても難しいものだったり、かなり偏った印象でした。TEWLに関し、何人かの先生から直接電話で問い合わせを受けることもありました(私はアレルギー専門医であって皮膚科専門医ではないのですけど)。

■ また、引用文献を示しエビデンスから記載された記事はあまりなく、世の中にニーズがあるかもしれないと思っていたところに学会から依頼をいただいたという経緯があります。

■ そこで、学会誌の内容を少し優しくして情報を追加しながら書き直してみたいと思います。

■ 学会雑誌には一般の方には読めませんし、ブログへのリンクは当然貼れません。ここでは自分自身のブログへリンクを貼ったり、自由に書いてみたいと思います。ということで、元文献より大きく変わっています。引用文献はだいたい日本語で要約した自分のブログ記事に飛ぶようにしました。

 

TEWLとは?

イメージ。

■ 皮膚バリアとは、外から入ってくる刺激や異物の侵入を防ぎ、自分から蒸発する水分を防ぐ役割があります。言ってみれば、皮膚バリアとは食品ラップのようなものと言えるでしょう(もちろん、それ以外の精緻な働きがあるのですけど、ここでは割愛)。

皮膚のバリア機能は主に角質層がその役割を担っています(下図右)。

■ そして、角質層から蒸散する水分量である経皮水分蒸散量(Transepidermal water loss;TEWL)は、皮膚バリア機能を示す非侵襲的な検査のうちでも最も重要なパラメータのうちのひとつとなります(下図左)。

 

 

測定機器の種類は?

■ 現在、測定機器として開放型と閉鎖型があります。開放型は周囲の空気の対流や乱流により影響されますので、それを防ぐための気流シールドを必要とします。

■ 閉鎖型はそれらの影響がありません。そして、開放型に代用できるとされています。一般的には閉鎖型が使用されています。

 

医療でどのように使用されるか?

■ TEWLは、主に研究目的で使用されます。

バリア機能低下をきたす疾患(例えばアトピー性皮膚炎や乾癬)や、人為的に起こした皮膚バリア障害(例えば界面活性剤といった洗剤の使用など)はTEWLが上昇します。

■ つまり、TEWLは高いほうが皮膚バリアが低い、と判断されます。上の図を見ていただければ明らかでしょう。

■ 医療現場(と言っても研究目的ですけど)でが、保湿剤の効果をみるためによく使用されます(もしかすると、高級な化粧品売り場とかでも使用されているかもしれません)。

■ 保湿薬を塗ると、皮膚バリア機能が補強されてTEWLが下がり、それぞれの保湿剤の効果に差があるかどうかをみる指標になるわけです。

 

高いとアレルギーになりやすい。

■ TEWLが何故、アレルギーの分野で注目されているかというと、皮膚バリア機能が低下するとアレルギー疾患の発症・増悪に関与することが明らかになってきているからです。いわゆる、「経皮感作」と言われる現象です。

■ 実際に、出生時のTEWLが、その後のアトピー性皮膚炎発症食物アレルギー発症を予測するといった研究結果もあります。

■ もともと、生まれてすぐからTEWLが高いひと、すなわちバリア機能が低いかたがいることになりますが、これは乾燥肌になりやすい素因があると考えられています。そうすると経皮感作からアレルギー体質になりやすい、という考え方です。

■ その素因として有名なのがフィラグリンという遺伝子です。フィラグリンは角質層を作るときの設計図のようなものと考えていただければよいでしょう。もちろん、フィラグリンは保険診療では検査できません。

■ 例えば、臍帯血のフィラグリン遺伝子異常があると、アトピー性皮膚炎の発症リスクが高いといった報告もあります。

■ 余談ですが、手のシワ(hyperlinearityというそうです)からフィラグリン遺伝子異常を予測するという面白い研究があります(Brown SJ, et al. Br J Dermatol 2009; 161:884-9.)。

hyperlinearityとフィラグリンに関する論文から引用。

 

■ ただ、最近は皮膚バリアに影響するのはフィラグリンだけでもないことは分かっていますし、アトピー性皮膚炎が治るかどうかに関しても、そのアトピー性皮膚炎重症度のほうが重要性が高いようですので、十分な治療やスキンケアをおすすめします。

 

結果に影響する要因は?

■ TEWLには、測定結果に影響する因子が沢山あり、測定に際し注意が必要です。

特に発汗はTEWLが増加します。また、皮膚の洗浄、外用剤、化学物質への曝露、皮膚の閉鎖・損傷も外的な要因として働きます。

■ また、喫煙者と比較して、非喫煙者はTEWLが低いことが示唆されています。

■ 性別・人種・民族的背景・日内変動の影響に関しては議論中、もしくは十分なデータがないとされています。

 

年齢でも測定する場所でも値が異なる。

TEWLの正常値は年齢・測定部位により異なります。例えば、65歳以上のTEWLは18~64歳と比較して低いと報告されています。

■ 小児に関する検討でも、TEWLは出生後から大きく変化することが知られています。

成人のTEWLは、前腕内側(ウデの手のひら側) 4.13±0.97 g/m2/h、膝窩(ひざ裏) 3.97±1.19g/m2/hである一方、新生児(出生後平均16.1±7.8時間)のTEWLは、前腕内側が平均11.30±3.39 g/m2/h、膝窩が平均10.95±2.96 g/m2/hと報告されています。

■ また測定箇所により測定値も異なります。最近行われた研究結果では、胸部における2.3g/m2/hが最も低く、腋窩(ワキ)の44.0g/m2/hが最も高値だったとされています(確かに、ワキは高そうです)。

 

標準的な測定方法。

■ いろいろな要因がTEWLの結果を変えてしまいますので、そういった外的要因による影響を減らすために、標準的な測定方法がガイドラインとして示されています

■ まず、最も大きい汗の影響を除外するために、測定される部位を測定前に少なくとも10分間外気に曝露し、温度20-22°C、相対湿度40-60%の環境に少なくとも15-30分間順応させることが推奨されています。

■ また、カフェイン含有飲料を3時間、測定部位に対する外用製品の使用を12時間回避することとされています。

■ 一般的に研究での標準的な測定部位は手首から離れた前腕内側になっていますが、他の部位も同様に、さまざまな研究で測定されています。結果は、同じ部位を3回測定し平均を結果とすることとされていました。

 

 

最後に

■ TEWLは、皮膚バリアを非侵襲的な検査(痛くない検査)で評価できますが、測定結果は多くの要因が影響してしまいます。

■ 一般的な状況では、推奨されているような環境を設定することは必ずしも簡単ではないでしょう。臨床応用する際には注意を要することとなります。

 

今日のまとめ!

 ✅皮膚バリア機能を表す、TEWL(経皮水分蒸散量)に関して、説明してみました。

 

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